東大理系数学 2025-2
(1) $x>0$ のとき、不等式 $\log x\leqq x-1$ を示せ。
(2) 次の極限を求めよ。 $$\lim_{n\rightarrow\infty}n\int_1^2\log\bigg(\frac{1+x^{\frac1n}}{2}\bigg)dx$$
方針、略解
(1)微分しましょう。ちょっとオシャレな(?)示し方を後述します。
(2)想定解はおそらく挟み撃ち。上側は(1)を使えるが、下側の評価に相加相乗平均の不等式を用いるというのがやや技巧的。
動く図解
上から順に$y=n\frac{x^{\frac1n}-1}{2}$, $y=n\log\big(\frac{1+x^{\frac1n}}{2}\big)$, $n\log(x^{\frac{1}{2n}})$
(1)の背景
(1)はいわゆる「マクローリン型不等式」の一つです。$-1< x\leqq1$のとき$$\log(x+1)=x-\frac12x^2+\frac13x^3-\frac14x^4+\cdots$$ が成立することを知っている人も多いでしょう。本問ではこの一次の項まで取ったものを評価しています。
こういった不等式は微分を繰り返して単調性or増減表から$f(x)\geqq0$を示すことに持ち込むのが常套手段ですが、ここでは別の証明を紹介します。
実数$t$に対し、$t\geqq1$のとき$\frac1t\leqq1$が成立する。よって$x\geqq1$のとき、両辺を区間$[1,x]$で積分すると、$\log x\leqq x-1$
同様に、$0< t\leqq1$のとき、$0< x\leqq1$に対し$\frac1t\geqq1$の両辺を$[x,1]$で積分すれば、$-\log x\geqq1-x$
以上より$x>0$のとき$\log x\leqq x-1.$ $\square$
どうでしょう?結局は微分して増減表書くのと何ら変わらないのですが(微分を積分で書き直しただけ)、ちょっとおしゃれな感じがします。
この方法の強い点は、一般形のマクローリン型不等式を容易に導出できる点です。実際に見てみましょう。
$n$を自然数とする。
$t\geqq0$のとき、$(1+t)(1-t+t^2-\cdots+t^{2n})=1+t^{2n+1}\geqq1$より、両辺を$(1+t)$で割って、
$1-t+t^2-\cdots+t^{2n}\geqq\frac{1}{1+t}$ これを$x\geqq0$に対し$[0,x]$で積分すれば、
$x-\frac12x^2+\frac13x^3-\cdots+\frac{1}{2n+1}x^{2n+1}\geqq\log(1+t)$
同様にして$\log$の下からの評価も出来ます。また、$\cos t\leqq1$を繰り返し積分することで$\sin,\cos$のマクローリン型不等式なんてのも示せます。是非やってみてください!
(2)の背景
本題の(2)です。相加相乗平均の不等式を用いる方法はやや技巧的で、応用性が低く感じる人が多いかもしれません。そこで、「積分の極限」に対し強力かつ汎用的な方法である、部分積分による解法を紹介します。
$\displaystyle{a_n=n\int_1^2\log\bigg(\frac{1+x^{\frac1n}}{2}\bigg)}$とおくと、 $$ \begin{align} a_n &= n\Big[x\log\bigg(\frac{1+x^{\frac1n}}{2}\bigg)\Big]_1^2-\int_1^2nx\frac{\frac12\cdot\frac1nx^{\frac1n-1}}{\frac{1+x^{\frac1n}}{2}}dx \ \cdots \ (1回目の部分積分)\\ &= 2n\log\bigg(\frac{1+2^{\frac1n}}{2}\bigg)-\int_1^2\frac{x^{\frac1n}}{1+x^{\frac1n}}dx\\ &= 2n\log\bigg(\frac{1+2^{\frac1n}}{2}\bigg)-\Bigg\{\Big[\frac{\frac{n}{n+1}x^{1+\frac1n}}{1+x^{\frac1n}}\Big]_1^2+\int_1^2\frac{\frac{n}{n+1}x^{1+\frac1n}}{(1+x^{\frac1n})^2}\cdot\frac1nx^{\frac1n-1}dx\Bigg\} \ \cdots \ (2回目の部分積分)\\ &= 2n\log\bigg(\frac{1+2^{\frac1n}}{2}\bigg)-\frac{n}{n+1}\bigg(\frac{2^{1+\frac1n}}{1+2^{\frac1n}}-\frac12\bigg)-\frac{1}{n+1}\int_1^2\frac{x^{\frac2n}}{(1+x^{\frac1n})^2}dx\\ \end{align} $$ ここで、$\frac1n=t$とおく。 $$ a_n=\underline{\frac2t\log\bigg(\frac{1+2^t}{2}\bigg)}_①-\underline{\frac{1}{1+t}\bigg(\frac{2^{1+t}}{1+2^t}-\frac12\bigg)}_②-\underline{\frac{t}{1+t}\int_1^2\frac{x^{2t}}{(1+x^t)^2}dx}_③ $$ 上の式について、$n\rightarrow\infty$のとき、$t\rightarrow +0$より、 $$ \begin{cases} ①\rightarrow2\frac{d}{dt}\log\big(\frac{1+2^t}{2}\big)\Big|_{t\rightarrow+0}=\log2\\ ②\rightarrow\frac11\cdot(\frac22-\frac12)=\frac12\\ |③|\leqq\frac{t}{1+t}\int_1^2\frac{1+2x^t+x^{2t}}{(1+x^t)^2}dx=\frac{t}{1+t}\int_1^2dx\rightarrow0 \end{cases} $$ $$\therefore a_n\rightarrow\log2-\frac12$$
何をしているのか説明します。まず、部分積分を繰り返し、元の積分から「主要項」を取り出します。これにより①②の項が得られ、容易に極限を計算できます。ここで注意したいのは、③の項が一次の無限小になっていることです。(つまり、無限小のオーダーとしては$t$と同じになっている)そのため、極限を取ればここの項を無視して計算できます。つまり積分部分を消滅させられるのです。
なぜ部分積分でうまくいくのか?[メタな視点から]
ポイントは、部分積分により積分の項のオーダーを上げたり下げたり出来る点です。微分のときに肩から降りてくる$\frac1n$や、合成関数の微分によってかけ算される$\frac1n$等々を狙って作り出すことが出来れば、今回のように無限小に飛ぶ項へと変形できます。
更にメタな話をすると、実は「部分積分で極限が容易に求まる」という問題は、東大2015に出題例があります(この時は誘導あり)。その経験があると、誘導を無視して部分積分を始めることに抵抗はなかったのかもしれません。
なぜ部分積分でうまくいくのか?[数学的背景]
実は部分積分は級数展開(マクローリン展開)と同じ事をやっています。それが実感できる例を紹介しましょう。
式変形は大変ですが、部分積分することがまさに級数展開の次数を挙げることに相当しているのが分かると思います。
(というか、そもそも積分という行為が次数を上げるものである以上、これは当たり前でもある。前述の(1)の証明も同様に、積分により近似のオーダーを上げて、自明な不等式から高度な不等式を導出している)
ちなみにこの操作を一般の($n$回微分可能な)関数に対して行うと、まさに「テイラーの定理」が導かれます。これに関しては金沢工業大学さんの解説がありますので、興味のある方はご参照ください:
https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/category/suuretu/suuretu/henkan-tex.cgi?target=/math/category/suuretu/suuretu/taylor-teiri2.html
類題紹介
いくつかは今回と同様の変形が刺さります。(少し工夫を要するものや、そもそも刺さらないやつもあるかも...)